第83回 第85回

随想第84回

有限会社東北工芸製作所 佐浦 みどり 食がつくる地域のイメージ 有限会社東北工芸製作所
佐浦 みどり

 6月19日にプロ野球が開幕しました。

 今年は楽天野球団さんが16年目を迎え、東北•仙台でこれから歴史と伝統を地元の方々と改めて作りたいという決意のもと、玉虫塗を施したヘルメットを採用頂きました。「玉虫塗」は昭和7(1932)年、国の初めての試みとして仙台に設置された国立工芸指導所で、「輸出」のために開発されました。当時指導所では、海外の嗜好に合うように、色、デザイン、質感すべてに熟考を重ねて新しい漆工の可能性を模索していました。そこで開発されたのが、「銀粉」を撒き、その上から「染料」を加えた透明な漆を塗り上げるという独特の技法です。光の加減で色合いが微妙に変わる、その豊麗な色調がタマムシの羽根に似ていることからこの名が付けられました。「玉虫塗」は、ちょうど50年ほど経った1985(昭和60)年に宮城県指定の「伝統的工芸品」となりました。

 仙台という街で、いま人々が求めているものは何かを常に探究しながら手しごとにこだわり、商売を長く続けてきた結果、「伝統的な工芸品」として認めていただいたのだと考えています。

七十七銀行さんに楽天野球団さんを紹介いただいたのが始まりですが、ヘルメットが出来上がるまでには1年ほどかかりました。

実際に選手が被って試合に出るので耐久性面でもこれまでの玉虫塗の硬度では難しいと判断し、技術面で共同研究を行ってきた産業技術総合研究所東北センター(国立工芸指導所の後進機関にあたる)に、より傷に強い塗膜の開発と評価試験をお願いしました。

コロナ禍で直接球場での観戦はかないませんでしたが、開幕戦では楽天イーグルスが圧勝し、ヘルメットがテレビ中継で輝きを増してくれました。多くの方々に支えられ出来上がったヘルメットなので、選手達に想いが伝わって野球も地域も盛り上がるといいなと願っております。

東北工芸製作所は、仙台で産官民連携により生み出されたこの新技術をさらに改良・向上させながら、これからも「使う工芸」「時代に合ったものづくり」にこだわり、新しい用の美を作り続けていきます。

次回は食空間プロデュース 彩フード&テーブルコーディネーター 渡辺 世津 様