第65回 第67回

随想第66回

須佐 尚康 わがふるさとの教え~戊辰150年におもう~ 東洋ワーク株式会社 代表取締役社長
宮城会津会 会長 須佐 尚康

弊社は今年で創業43年になる。ここに至るまでには好不況を初め様々な波があった。東日本大震災では沿岸部で就労していた340名の従業員が、津波で職場を失った。さて、如何に!基本理念、経営理念に掲げている「人間尊重、社員に喜ばれる経営、社会に貢献できる企業の文言が脳裏を掠める。会津出身者の一人として、また、企業経営者である私にとって自らが掲げた「基本理念」「経営理念」は、何があっても、守り通さなければならない約束事である。いまここで職場を失った従業員を解雇したら、彼らは家族を抱え行き場を失う。

しかし、職場もないのに従業員を抱えていれば、人件費が嵩むだけである。判断に迷った。3月14日(月)、早朝取締役会で出した結論は「一人たりとも解雇しない」であった。決めるや否や、陸路新潟へ行き、新潟から福岡に飛び、広島、三重と行脚を重ね、これまでお付き合いいただいている会社に惨状をご理解頂き340名の受入れを承諾いただいた。今、あらためて各地の経営者の懐の深さ、情けあるご決断に衷心から感謝申し上げたい。

時恰も今年は戊辰150年の節目。あの時、わが会津の先人は、こころを一つにして義に生きた。私は、そのような歴史を持つ会津に生まれ育ったことを誇りに思う。幼き頃の友との約束、厳しい父母の教え、地域の皆様の暖かな眼差し、凛として続く伝統と文化、豊かな自然と美味しい食べ物。人生を振り返るとき、ことごとく会津に支えられていることに気付く。大震災の苦境に立たされたときの決断も、会津の教え以外の何者でもない。

時代も人も変わり、科学技術の発達は世の中を大きく変えようとしており、これまでの判断基準も変化しているかのような今日此の頃だが、私どもの一生の内には必ず決断のときが待ち受けている。そのようなときに、確たる判断基準を持ち、間違いのない決断を下す術は「利・不利」「損・得」ではなく、いかに「義」を踏まえた決断をしたのかだろうと思っている。会津人として、子供の頃から体験的に「義」の何たるかを教えて頂いたことは、ただただ感謝の他ない。