第61回 第63回

随想第62回

中田 久義 仙台慕情2 (株)アルカディア 代表取締役 中田 久義

歓楽街と言えば、東京は銀座、博多は中洲、札幌はススキノ、そして仙台は何と言っても《国分町》にトドメを指します。
仙台に支店を出して丁度半年、「杜の都」は今を盛りと鮮やかな《みどり》の衣をまとい、街路樹を吹き抜ける風に道行く人々は生気に溢れた表情を見せています。
さて、そこで愚生の国分町讃歌です。
前作で祇園をこよなく愛し「かにかくに祇園は恋し」とうたった歌人、吉井勇を引用しましたが、多感な少年時代より彼のうたに感動し、陶酔している愚生は、もう一度、彼の歌集「酒ほがひ」から、次の二首を紹介したいと思います。

 

月夜よし、寝しなといいし君がため

宇治の一夜は忘れがたかり

 

夏の帯、いさごのうえに長々と

解きてかこちぬ身さへほそると

 

何という《艶》何という《官能》

一代の蕩児、吉井勇の面目躍如ではありませんか。

京の雅、祇園の|艶麗|に比べられませんが、愚生はむしろ「杜の都」の朴質、そして「国分町の華」を好ましく愛おしみます。

 

《宇治の一夜》に対するに

《秋保の山峡の月》そして《解きてかこちぬ》は、ム、ム、ム、ム、ーーー。夢幻、湯けむりの彼方です。

 

愚生は、出自も平凡、歌才もなく、もはや枯れ葉のような老骨に過ぎませんが、胸には少年のような純情と、体には青年のような血潮が燃えています。
国分町は失いし青春時代の夢を垣間みせてくれるところです。
或る店では、藤村の初恋の詩、或る店では白秋の姦通罪に問われたゴシップ、また或る店ではスタンダールの「赤と黒」におけるジュリアン・ソレルをめぐるレナール夫人と灼熱の女マチルドを話題に喧々諤々。
とにかく、目の前のホステスさんの露出度をサカナにアルコールのピッチを上げ、国分町と仙台市に売上げと納税の貢献に勤しんでいます。これはもう《仙台慕情》ならぬ《仙台情活》の一席でした。

次回へつづく