第88回

随想第89回

蔵王酒造株式会社 常務取締役 渡邊 毅一郎 清酒製造の機械化と行く末 蔵王酒造株式会社 常務取締役
渡邊 毅一郎

 私が蔵王酒造に入社したのは、2017年の4月、今年で4年目になります。この数年間でも蔵の方では大小さまざまな設備投資がなされています。また、周りの酒蔵でも、あんな設備やこんな器具が入った、なんてことも聞こえてきます。近年、酒造設備がどんどん進化してきており、高精度化、効率化が図られていることが分かります。  しかし、この流れの行き着く先はどこなのか、と不安になることがあります。確かに機械の方が正確に数値が出る、より精密な処理ができる、個人差による誤差が発生しないなど魅力的な部分は多々あると思います。一見して純粋に酒質だけを見れば、機械の方がもしかしたら美味しい酒を造れるのかもしれません。いずれ誰でも一定を入れれば自動的に酒ができてくる、そんな未来もあるのではないかと頭をよぎることがあります。
ただ、酒の美味しさは味のみで決まるものではありません。その酒が生まれるまでのストーリー、蔵のこだわりやその地域の風土、造り手の想い、人柄、こうした様々な要因が飲み手の味の感じ方に間違いなく影響してくるものです。また、「人の手ならではの、出来の微妙な振れ幅」、これを楽しみにしている方はたくさんいらっしゃると思います。毎年全く同じ味の酒では面白くありません。ベースは同じ中で、ほんの少しの出来栄えの違いがあるからこそ、「今年のこの酒は去年に比べてこうだったね」、「初めて飲んだ時よりおいしくなった」、こんな会話が飲み手の方同士、あるいは造り手との間で交わされるのです。酒は人を繋ぐもの、その垣根を下げるもの、これを正に体現しているのではないでしょうか。
機械化が一概に悪いことでは決してありません。酒質の向上、効率化による次世代のための労働環境の改善、こうしたことのためには必ず必要になってくることです。しかし、あくまで「酒は人の手によって造られるもの」。このことを忘れず、守りながら「人の感覚」と「機械の精密性」との共存を意識して、日本酒としての誇りを胸に、蔵王の酒を醸していきたいと思います。

次回は株式会社コンストラクト・モーメント 代表取締役 中村圭祐様