第43回 第45回

随想第44回

阿部真也 5年8か月今思う 丸平かつおぶし 代表取締役 阿部真也

先日、お得意様の息子さんの結婚式に出席させて頂きました。創業60年になるお店で、息子さんは震災を機に戻ってこられたとの事でした。 今日この頃後継者不足が深刻な問題の折ですので、私にとっても新婦さんと同じ位ピカピカに輝いて見えました。よくぞ戻ってきたあんたはエライ。

この店も沿岸部にあり、津波で流され今も仮店舗にて営業しております。石巻というのは海と繋がっていますので、故郷の石巻は海あってこそなんです。 ただ、こういう目に遭って、このまま終わっちゃ悔しい。だから、何とかしてやる、という思いは皆持っている。特に、商売をやっている者の気持ちの中にある。 当社も石巻の北上川河口で創業し今年で113年になります。 戦前、創業者はかつおぶしの製造をし、二代目は製造をやめまして、仲買業をやるようになりました。女川や石巻でできたかつおぶしを集めて、問屋に荷出ししていました。 この頃は生産量も鹿児島、静岡に次ぐ産地だったらしいです。三代目になり仲買業から業務用のかつおぶしをそば屋さんに飛び込み営業して使ってもらうことを始め、 最終的には東北の千件以上のそば屋・料理屋さんが当社の削りぶしを使ってくれました。

そして、震災。工場は何とか残ったが、原料はすべて流され文字通りゼロからのスタートでした。 それから5年8か月がたち、震災前と比べて売り上げはどの位だとか、元に戻るにはこれから何をやっていくのか、そればかり考えてきたが、 最近それだけでは無いような気がしてきた。もちろん、時代時代の変化に応じて業務内容が変わってくるのは当然で、変化しないことはありえないし、 これからも新しいことにチャレンジするのは必要だと思う。

11月に石巻に食品加工や農家など生産者10社がタッグを組んで新しいお店をオープンさせる。新しい店や新しい商品ができると新しい絆が生まれる。 これも一つの価値かもしれない。自分も戻ってくる息子(後継者)には、利益や規模のみを追い続ける価値よりもっと大事な価値があることを伝えたいと思う。 それが覚悟をもって故郷石巻でくらしていく若者の誇りになればよいと思う。

次回は株式会社 田伝むし(でんでんむし) 社長 木村 純氏