第42回 第44回

随想第43回

平塚隆一郎 「サバだしラーメン」ストーリー 山徳平塚水産株式会社 代表取締役 平塚 隆一郎

人気ドラマ「孤独のグルメ」東北・宮城出張編で主人公・井之頭五郎(松重豊)が東北出張のしめに選んだ食事とは?

「牛タン」でも「海鮮丼」でも「穴子の天ぷら」でも「殻うに」でもなく「サバだしラーメン」だったのです。なぜに水産加工会社の人間がラーメンの話を始めちゃうのか、と訝る向きも多いと思うので、ちょっと説明させていただく。

昭和の香り漂う旧河北町飯野川のひっそりとした商店街をなんとか活性化させようと石巻専修大学経営学部石原ゼミの学生たちが取り組んでいたところに襲った東日本大震災。津波の被害は免れたものの地震の被害は大きかった。学生たちが活性化の手段にと考えていた古い建物はことごとく被害を受け解体。

それでも諦めずたどり着いたのがいろいろな料理にサバだしを使うという飯野川独特の食文化だった。商店街の食堂のみなさんとサバだしで共通メニューの開発に取り組んだ結果できあがったのが「サバだしラーメン」だったのです。

しかしお店の目玉メニューとはなったものの町の外からひっそりとした街に人を引き付けるにはまだ力不足。そこで立ち上がったのが「サバだしラーメン商品化プロジェクト」でした。チームメンバーはサバエキスを担当する我社のほか、スープを仕上げるタレメーカー、製麺会社、ラーメンの原料となる小麦栽培農家。

学生たちと何度も試作、試食を繰り返してやっと発売にこぎ着けたのが三年前のことでした。他の商品よりも価格が割高なので売れるかどうか不安でした。しかし発売後は大好評で予想を上回る売れ行きとなりました。新鮮な三陸産のサバでだしをとった風味ゆたかなあっさり系スープと、石巻市河北地区で生産されている地粉(ユキチカラ)を原料に、サバの中骨から生成した焼成カルシウムを配合し、かん水を半分に減らした低かん水麺の相性も抜群です。

その結果、商品版を食べたお客様が「本物を食べに行こう」と飯野川のお店に訪れるようになり、仙台など遠方からのお客様も増え「行列しないと食べられない」と地元の方から苦情が出るほどになりました。

大学、飲食店、農家、被災した地元の食品メーカーと協力で創りあげた商品というストーリー性もありマスコミにもたびたび取り上げられ、ついにドラマに登場となりました。

次回は丸平かつおぶし 代表取締役 阿部真也氏