第30回 第32回

随想第31回

坂本サトル 誰かの心を震わせる作品を作るため、これからもその絆を深め広げていきたい シンガーソングライター 坂本サトル

歌詞や曲を書くという作業は基本的には孤独な作業です。気持ちの奥底にひっそりと眠っているような感情をすくい上げて言葉やメロディにする行為は、自分に真正面から向き合う作業でもあります。

しかしそれを作品として世に出す作業(レコーディング)には大きく分けると「全てを自分でやる」「誰かと一緒にやる」という2つの選択枝があります。

現在、世界中の99%のレコーディングはパソコンを使って行われています。そのパソコンや周辺機材の高性能化と低価格化によって全ての作業が1人でできるようになり、そういうスタイルで音楽制作を行うミュージシャンがここ10年程で爆発的に増えました。しかし、僕は予算や期間の関係でやむを得ない場合以外は、できるかぎり「誰かと一緒にやる」方を選ぶようにしています。

レコーディングに限らず、今は様々な事が自分で出来てしまいます。パソコンと専用ソフトの使い方さえ覚えてしまえば「取りあえずなんとなく」形になるわけです。そんな世の流れの中で良く言われるのが「プロとアマチュアの差がなくなってきている」というセリフ。僕自身も専門外の事を「やってみたらできそうだから」という理由でどんどんやった時期がありましたが、やがて辿り着いたのは「餅は餅屋」という考え方でした。何かを突き詰めて行けば行くほど、実際にはプロとアマには圧倒的な差があることを思い知らされます。

「自分の想像や能力を超えた作品を作るためには、各分野の専門知識と技術と才能が集まった時に起こる化学反応が必要なのだ」と気付いてからは、様々な分野の方々とのお付き合いが一気に広がりました。1つ作る度にお互いの信頼が深まり、また次の作品作りへ繋がっていきます。そうやって関係が定着していき、やがてチームとなり、今も新しいプロジェクトに挑んでいるところです。

ミュージシャン、レコーディングエンジニア、ライブスタッフ、デザイナー、イベンター、そして打合せや打ち上げで使っている飲食店…、全てが欠かすことのできない大切な人であり場所なのです。

誰かの心を震わせる作品を作るため、これからもその絆を深め、そしてまだまだ広げていきたいです。

次回はシンガーソングライター 熊谷育美氏