第11回 第13回

随想第12回

尾形 孝徳 躊躇 仙台市子供未来局子供相談支援センター 所長 尾形 孝徳

東京駅新幹線ホーム、出張帰りの私は、ぼんやりと先発の車両に乗り込む人達を見ていました。

突然、「子どもが落ちた。」という声が聞こえてきました。声の方を見ると乗客が車両とホームの間を覗きこんでいます。同時に子どもの泣き叫ぶ声と母親の子どもを呼ぶ声が聞こえてきました。狼狽する母親の姿は当然、尋常なものではありません。間もなく発車することを知らせるアナウンスが聞こえます。非常ボタンを押すかと躊躇する男性に「直ぐに押して。」と声をかけ、泣き声のする方に駆け寄り、車両の下を覗き込むと三歳ぐらいの男の子が烈火のごとく泣き叫んでいました。乗降口とホームには隙間が二十五センチほどありました。

「僕!大丈夫だよ。直ぐ助けてもらうからね。」と声をかけると、男の子はむっくりとその場に立ち上がりました。見るとホーム側に傾斜があります。「動いちゃだめだよ。」と声をかけると、男の子は私の方に顔を上げ、手を伸ばしてきました。一瞬、(引き上げられるのか)と躊躇しましたが、膝をついて手を伸ばすと私の手は男の子の手に届き、ギュッと握り返すではありませんか。しかし、(落ちた時に怪我はしていないのか。引っ張り上げた時、肩を脱臼するのではないか。途中で手を離したら怪我をさせてしまうだろう。)様々な心配がよぎります。でもその子の手は、私の手をギュッと握ったままです。私の直ぐ横で若い男性が覗き込んでいることに気づき、「手伝って。」と言うと彼はすぐにホームに膝をつき、男の子の左手を掴んでくれました。(二人だったら大丈夫)と思い、そっと引き上げ始めたところ、頭がホームと車両の間から抜けないではありませんか。(どうしよう・・・待てよ入ったんだから、絶対抜ける)と思いながら、隙間を見ると乗降口の方の隙間が広いことに気づきました。「もう少し右側に移動しましょう。」と男性に声をかけ、さらにもう一人の男性も手を差し出してくれて、移動して引き上げるとすっぽりと出てきました。引き上げるまでの間、男の子は黙って身を私たちに任せてくれていました。

男の子と目が合いました。「よかったね。」と言うとにっこり笑顔を返してくれました。

駅員が来るまで待つべきだったかもしれません。しかし、差し出された手に何とか応えてあげたいと躊躇しながらも行動していました。

次回は、仙台市議会議員 我孫子 雅浩氏