第10回 第12回

随想第11回

藤代 正倫 教員の「卵」から「雛」へ 宮城教育大学 教職大学院 特任教授 藤代 正倫

はじめてテレビから流れる気仙沼の津波の映像を見た時、実家も浸水したと思いました。数日後、実家の前の道路まで津波が押し寄せてはきたものの浸水は免れたと知りました。

4月2日に震災後初めて気仙沼を訪れ、「旧知の方々の訃報」また「ド台しか残っていない惨状」「漁船が陸に打ち上げられている惨状」等を目のあたりにし言葉を失いました。ただ涙だけが頬を伝わり、地元のために何ができるだろうと、たちつくすしかありませんでした。6月になり、本学に教育復興支援センターが開設され、事業の一つに被災地の子供たちへの学習支援を行うという話を聞き、迷わず手を挙げさせていただいた次第です。

8月後半に愛知教育大・福岡教育大の学生と本校の学生・教職大学院生を引率し、気仙沼市の3会場で、午前は小学生、午後は中学生という形態で、のべ約500名の児童生徒に学習支援活動を行いました。学生達は、「被災地の子供たちの力になりたい」「寄り添っていたい」「笑顔になってもらいたい」という熱い思いから駆けつけてくれました。児童生徒は、絵日記や計算ドリル、読書感想文等の夏休みの宿題を持って集まり、「九九の暗記を聞いて?」とか「この計算問題をどう解くの?」という児童、「受験の対策はどうすればいいの?」という生徒等、学生に気軽に声を掛け、聞かれた学生も丁寧に優しい言葉で応えていました。その時の子供達の目には輝きがあり、「分かった」とか「できた」と言った時の子供の表情には「笑顔」と「安心感・満足感」が感じ取ることができました。

4年生の児童が、「宿題がたまっていたけれど、お兄さん・お姉さんに手伝ってもらって早く終わったので、遊びに行きたい」と話してくれた時は、わずかな時間でも学習支援活動の意味があったことを感じさせられたと同時に、先生の「卵」である学生にとってもこの学習支援活動が子供との接し方や学習の教え方だけでなく、教員になろうとする「志」を高めることになる貴重な体験でもあったように感じました。この被災地での経験か確実に「卵」を温め、「雛」へと成長させてくれることと確信しています。なお、この学習支援活動は、今も後輩に受け継がれています。

 次回は、仙台市子供未来局子供相談支援センター 所長 尾形 孝徳氏